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西野つかさを応援するスレ Part85

1 名前:名無しさんの次レスにご期待下さい 投稿日:04/03/15 22:42 ID:Jh8Jq8Tr
いちご100%の西野つかさを応援するスレです。
つかさファンが集う場所です。
東城・北大路ファンは控えめに。
東城・北大路叩きも控えめに。
他派を刺激する内容はスレ内完結で。
このスレでのいちご100%のヒロインは、どんなことがあろうと西野つかさです。
煽り・荒らし・その他、マターリマターリを壊す輩は「完全放置」で。
雑談はOK。なりきりは禁止。

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西野つかさを応援するスレ Part84
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659 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:15 ID:l5HigKVQ
「あたしね、高校卒業したらパリに留学するつもりなの」
 もしもあの時西野を引き止めていたら、俺たちはどうなっていたんだろう・・・・・。


SS 「 Graduation 〜あれから僕達は 」


 西野が去って四度目の春が訪れていた。大学四年になった俺は、今月末に控える卒業式を待っていた。
就職も決まっていないのに・・・・・・。
ベッドの上で寝転んだまま、机の上の写真を見つめる。苦しい時はいつも助けてくれた
この写真も今回ばかりは効果がない。写真の中の俺は、まだ現実を知らない子供だった。
隣で笑っている西野は、今何をしてるんだろう・・・・・。
四年前の今日、俺と西野は別れた。お互いの夢のために。
最初の頃は頻繁にとっていた連絡も、いつしか少なくなり、もう二年近くも連絡はない。
自分から連絡する気にもなれない。今の俺じゃ、西野にあわせる顔なんてないし。
もうきっと西野だって、他に恋人でもできたんだろうな。
(せっ世界で一番、西野が好きだあああああ!!!!!)
(・・・・あたしも世界で一番淳平くんが好き・・・・・これからもずっと・・・・)
 あの時の俺たちは、きっと夢を見てたんだ・・・・・。叶うはずのない夢を・・・・。 
 俺たちは、距離に負けてしまったんだろうか。もしあの時に引き止めていたら・・・・。
 戻らない時間を振り返っては後悔を繰り返す。最近はそんなのばっか。
 所詮この程度だったんだ。俺なんて。
 壁に飾られている「桜海学園 西野つかさ」の卒業証書ももう、何の意味も持たない。 
 夢を叶えて、西野と幸せになりたかった・・・・・・。



660 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:16 ID:l5HigKVQ
ジリリリリリリ!!
 部屋に響き渡る目覚ましの音で俺は起き上がる。時間は朝の五時。これからコンビ二のバイトにいかなくちゃ。
「さみ〜なあ。コーヒーでもいれるか・・・・・」
 そういって俺はガスのスイッチを入れようとした。
「あれっ? もしかして・・・・・・やっぱり・・・・・」
 ガスは止められていた。まあ、ガス代払ってないから当たり前か・・・・。
 家からそれほど遠くない場所で、俺は一人暮らしをしている。近くの芸術系大学に進学
した俺は、大学生活に希望を膨らませ一人暮らしをスタートさせたはずだった。
今は希望なんてものはなく、コンビ二と家をいったりきたりするだけの生活。
まだ薄暗い中を歩いていく。三月の朝は寒くて、誰かのぬくもりが欲しくなる時もある。
「おせーぞ! 早くしたくしろよ」
「すいません! ちょっと寝坊しちゃって」
(あの店長、自分は働かないくせにいっつも偉そうなんだよなあ)
「いらっしゃいませ〜。おはようございます」
 やる気のない声でバイトを始める。朝のバイトは眠くて真面目にやれない。
(ガス代どうすっかな〜。そういえば家賃も払わないと)
 そんなことを考えながらレジを打っていた。
「じゅんぺー、真面目にやりなよ!」
「えっ?」
下を向いていた顔をあげ、レジの前を見ると唯が立っていた。
「なんだ唯か・・・・・。お前コンビ二弁当ばっか食うなよ! 自炊しろって!」
「だってめんどくさいんだもーん。あっ! ちゃんと弁当あっためてね!」
唯は近くに住んでいるため、よく俺がバイトをしている時間に来る。唯も今は大学三年
で就職活動中だ。唯がとても大学生に見えないのはともかく、俺も一年前は必死に頑張ったんだけど。
「淳平就職どうすんの? もうすぐ卒業でしょ?」
「さあな。もうどーせ無理だから、フリーターでもなろうかな?」
 


661 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:17 ID:l5HigKVQ
一年前、映画関係の就職を目指して必死になった。だけど、俺なんかを雇ってくれる会
社なんて一つもなかった。その頃からだ。夢なんて、口に出すのも恥ずかしくなったのは・・・・・。
「今の淳平みたら、西野さんどう思うんだろうね・・・・・」
「別に・・・・もう俺と西野は何の関係もないよ」
「本当にそう思ってる?」
「本当だよ。西野だってもう、俺なんて忘れてるに決まってるよ」 
大人になるたびに嘘が上手くなる。何の関係もないと言えるほど、俺は西野を思い出に出来ていない。
「まあ、元々淳平には不釣合いだったんだよ。気にすることないって! じゃあ、あたし
もういくね。バイバイ!」
 そういって唯は出て行った。
(今の淳平みたら、西野さんどう思うんだろうね・・・・・)
唯がいったこの言葉が、何度も頭の中を駆け巡っていた。今の俺を見たら西野は・・・・・。
(あたし、淳平くんにあえて本当に良かった。淳平くんに会えなかったら、自分の進みた
い道見つけられなかった。ありがとう・・・・・淳平くん)
(俺も、西野に会えてよかった。西野のおかげで、自分の夢を諦めないでいられたんだ。
ありがとう・・・・・西野)
 あの日の俺たちには、不確かな自信があった。夢を追い続ければ、いつかきっと会える。
 他の人が聞いたら笑っちゃうようなものでも、俺たちには何よりも確かなものだった。
 手探りで確かめながら進んできた道。今の俺には西野への道が・・・・・もう見えない。


662 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:18 ID:l5HigKVQ
「おつかれ〜っす」
昼になりバイトが終わった俺は、ぶらぶらと街の中を歩いていた。今日は高校の卒業式
なので、晴れやかな表情の学生達が街にくりだしていた。
 彼らに四年前の自分を重ね合わせて、懐かしさがこみ上げてくる。
 就職も決まらないまま大学を卒業する俺に、祝福をくれる人なんていないだろうな。
「淳平くん! 卒業おめでとう!」
「えっ!?」
咄嗟に俺は振り返る。俺を淳平くんと呼ぶのは世界で一人、西野しかいない。
「サンキュー。祥子」
 なんだ・・・・人違いか。そうだよな、西野がこんなトコにいるわけないし。
なにやってんだよ俺は・・・・・。西野とは、声が全然違うじゃねーか・・・・。
 泉坂の制服を着る淳平と呼ばれた少年と、桜海の制服を着ている祥子と呼ばれた少女が
 まるで、あの日の自分達のようで、俺は素直に彼らを直視できなかった。
 逃げるようにして俺は去っていく。見慣れた泉坂の街で、なんだか孤独に襲われた。 
 押し寄せてくるのは自分に対する嫌悪感。ホントはこんなはずじゃなかったのに・・・・。


663 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:18 ID:l5HigKVQ
俺の足は中学校へと向かっていた。苦しくなったときにはいつもここに来ていた。
そうすると、なぜか西野に会えるような気がしたんだ。
(好きだああっ西野つかさちゃん!! おっ俺とつきあってくださ・・・っっ)
(あーはっはっはっはっはっは!! い、いいよ君となら、あははははは)
ここで西野に言った二回の告白。今の俺が告白したら、西野はOKしてくれるだろうか。
きっと無理だろうな。今の俺じゃ。俺はグラウンドを歩き始めた。
校庭にはいつもよりも早めの桜が咲いていた。四年前のあの日も、同じ桜が咲いていた。
あれから周りのみんなは変わっていった。俺を除いて・・・・・・。
東城は美人学生作家として、マスコミにも取り上げられた。さつきは結婚して子供もい
る。大草はJリーグに入った。外村はカメラマンになるとか言ってたっけ・・・・。
みんな、みんな変わっていく・・・・・。確実に月日は経っていく・・・・・・。
俺だけ前に進めない。何も変わらない。
春が来るたびに、俺はいつもここで桜をみていた。西野との再会の約束。
それも叶わぬまま。涙が出ないように、ただひたすら桜の花びらが散るのを見ていた。
春がくれば毎年桜は咲く・・・・・・。
毎年同じように咲き続ける桜みたいに、ずっと、あのままでいたかったんだ・・・・・。
 


664 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:19 ID:l5HigKVQ
気がつくと俺は、見覚えのある場所に来ていた。意識的か無意識なのかはわからない。
 看板「テアトル泉坂」
 ここで、俺たちは夢を追ったんだ。そういえば、西野に運命を感じたこともあったっけ。
 本当に大切なものは失ってから気づく。西野と一緒に帰った何気ない日常も、もう戻らない。  
「淳平か? どうしたんじゃ? ひさしぶりじゃの〜」
「ちょっと、前を通りかかったんで・・・・」
 久しぶりに会う館長は、何も変わっていなかった。まあこの年になれば二、三年で変わ
るわけないか。相変わらずこの映画館は客が少ない。経営大丈夫なんだろうか・・・・・。
「ちょうどいいとこに来た。久しぶりに掃除してくれんか?腰がいたくての〜」
「ええっ! でも・・・・・」
「あ〜そうか。こんな年寄りの願いも聞いてくれない、冷たい大人になったんじゃな。淳平は」 
「あ〜、わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」
 渋々と掃除に取り掛かる。久しぶりに入る館内は、相変わらず閑散としていて薄暗い。
 高校時代、いつも俺はここでバイトをしていた。休憩時間にやってくる西野と、たくさんの夢を語り合った。


665 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:20 ID:l5HigKVQ
古ぼけた入り口のドアには、まるであの日の俺たちがいるような気がした。
―――――――――――――――――――
(淳平くん、お疲れ〜)
(あっ西野! もうちょっとで終わるから、一緒に帰ろうか)
(うん。今日ね、オリジナルケーキ作ったんだよ。淳平くん味見してくれる?)
(ホントに? じゃあ、早く終わらせるよ!)
(コラ〜! 急いで適当にやっちゃだめだよ!) 
(大丈夫だって! 元々汚いんだし)
(もう〜。仕方ないな〜)
(淳平! 聞こえたぞ。真面目にやらないとバイト代抜きじゃからな!)
(バイト代って・・・・俺元々もらってないじゃないですか!)
(う〜ん・・・・そうじゃったか? とにかくちゃんと掃除せえ!)
(そうだ! ちゃんと掃除しないとだめだぞ!)
(西野まで・・・・わかりましたよ〜。ったく、どーせ客こないのに・・・・)
(なにかいったか?)
(いや・・・・なんでもないです・・・)
(あはは。淳平くん、頑張って〜) 
(じゃあ、つかさちゃん、そのケーキわしに食べさせてくれんかのう)
(ちょっと待て〜!)
 ―――――――――――――――――――
「・・・・・ハハハ。もう、何やったって戻るわけないのに・・・・・」
 目を閉じると浮かんでくるのは、眩しすぎた思い出。過ぎ去った時間。戻れない日々。



666 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:20 ID:l5HigKVQ
「どうした? 淳平」
「えっ?」 
 気づくと俺は涙を流していた。それはきっと、過去が美しかったからじゃなく、今の
自分が嫌いだから。どうしようもない自分に苛立ちを感じていた。それでも動こうとし
ない自分が何よりも嫌いで、誰かの救いが欲しかったんだ。四年前の俺は、変わらない
ことを望んだはずだった。だけど今の俺は、あの日の俺が望んだ姿だろうか・・・・・。
「まあ・・・・お前も色々あったんじゃろう・・・・。そういえば、映画はどうした?」
「・・・・・・・・・・・・」
「映画監督になるのが夢じゃなかったのか?」
「・・・・・夢なんて、所詮夢のままですよ」
 夢なんて、きっと叶わないから夢なんだ。俺は自分にそう言い聞かせていた。
そう言い聞かせることで、自分だけの逃げ道をつくっていた。
「せっかく来たんじゃ、映画でもみていくんじゃな・・・・」
「別にいいですよ・・・・もう映画なんて・・・・・」
「いいから、客席にすわらんか!」
 館長の迫力に押されて俺は席についた。正直どうでも良かった。映画なんて、もう見るのも嫌だったんだ。


667 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:22 ID:l5HigKVQ
客が帰ったあとの、誰もいない館内に一人で俺は映画を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・・」
 スクリーンに映し出された映像は、俺が初めてここで見た、あの映画だった。
 俺たちに重なる境遇の物語。でも、最後は全員バラバラになって・・・・・・。
 今思えば、この映画は今の自分達を暗示していたのかもしれない。気づくのが遅すぎた。
 映画のラストシーンに涙が出た。高校時代何度も見た映画なのに。なぜか涙が出た。
 自分がどうしようもなく思えて、悔しかった。どうして俺にはこんな映画が作れなかっ
たんだろう。どうして俺には・・・・・・・・。才能がなかったのかな・・・・・。
映画を見終わった俺が立ち上がろうとすると、続けて次の映画が始まった。
飛び込んできたその映像を見て俺は絶句する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
くいいるようにその画面を見つめていた。映画のヒロインの仕草やセリフに俺は目が離せなかった。
(・・・・・あたしは山って怖い。小さいとき迷ったことがあるの。夜になって月の見
えない真っ暗闇の中延々さまよって・・・・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
(キミの姿勢があまりにも真剣だから・・・・・それに、もしかしたらあたしキミのこと――――――)
(ドキッとした?)
「俺たちの作った・・・・・映画?」
 ただその映画を見ていた。みんなと一緒に作り上げた、思い出の映画だった。文化祭で
も大好評、コンクールでも努力賞までいった自分の中では納得のいく作品だったかもしれ
ない。俺は、当時を懐かしみながらその映画を見ていた。


668 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:22 ID:l5HigKVQ
(行かないでくれ!俺やっとわかったんだ。俺、俺好きなんだよ!西野のことが)
 そういえば何回もNG出したんだよなあ。このシーン。苦労したなあ。
 この場面を見たときに、パリへ旅立っていった西野がフラッシュバックした。
(ほら! 淳平くんが廃墟に逃げ込んだあたしを追ってドアをバン!って開けるシーン。
あそこであたしに好きだっていったじゃん?あそこね・・・・あたしね・・・・・
ものすごく胸がドキドキしちゃった!バカだよね。自分が告られたわけじゃないのに)
 俺は西野にこの言葉を言うべきだったんだろうか。あの時、ひきとめていれば・・・・。
 本当は西野の夢を応援できていなかったのかもしれない。自分よりも先に進む西野に嫉
妬して、応援するふりをしていただけだったんだ。
「ハハ・・・・最低じゃん。俺」
いつからか俺は夢を見失ってしまった。高校時代にはもう戻れない。
「下手くそな映画じゃなあ。演技も下手じゃし、カメラワークもまだまだじゃし、かろ
うじて脚本が見れるくらいじゃの」
 いつのまにか後ろに来ていた館長の言葉にムッとして俺は振り返った。
「よくこんな映画コンクールにだせたのう。明らかに素人レベルじゃぞ」
「そっ、そこまでいわなくたっていいじゃないですか? みんな、必死に頑張ったのに!」
「なんじゃ? もう映画監督の夢はどうでもいいくせに、自分が作った作品をバカにされるのは気に入らんか?」
「そ、それとこれとは関係ないですよ」
「まあ、どっちにしても今のお前じゃこれよりもひどい映画しか作れんじゃろうな」
「そんなわけないですよ! 俺だって大学はいって、それなりに技術とか機材とか色々勉
強して頑張ってたんですから・・・・・」


669 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:23 ID:l5HigKVQ
館長が言った言葉に俺は黙っていられなかった。絶対に高校時代よりもいい映画が作れ
る自信はあった。大学時代、叶わないなりに努力した自信が。
「・・・・・・一体大学はいって何を勉強してきたんじゃ?技術だの機材だの、映画を作
るのに一番大切なのはそんなことじゃないじゃろ。今のお前は映画を作る上での最も大事
なことが足りん。少なくとも、高校のときのお前には、それがあったと思うがな。だから、
こんな下手くそな映画でも努力賞になったんじゃろ」
「・・・・・・・・・今の俺に、足りないもの?」
館長が言っている意味がわからなかった。高校時代の俺にあって、今の俺にないもの。
気がつくと映画はラストシーンを迎えようとしていた。
(僕達が再び出会うことはないだろう。だからこそ忘れない。君の声、君の瞳、君と見た
すべての風景・・・・・・そして、君と過ごしたあのまぶしい夏を――――――――――)
どこか切なくて儚げな西野の笑顔と共に、映画は終わった。
スクリーンの中の西野は、あの日のままの笑顔で微笑んでいた。
「この頃、機材とか何にもなくて、俺も全然技術がなくて・・・・・・・」
「機材や、技術だけで作られた映画を本当にいい映画だと思えるか?わしはな、映画とは
人を幸せにするためにこそあるとおもっとる。昔のお前はそのことを知っていたと思った
んじゃがな。少なくとも、つかさちゃんは知っていたはずじゃ」
「西野が・・・・・・?」
(映画もケーキも似たようなモンなんだね)
(だってさ! どっちとも人を幸せにしてあげようって気持ちは一緒だもん!)
(なんてゆーか料理ってさ、誰かに食べてもらうその時の顔を想像するだけで頑張れるじゃない?)


670 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:24 ID:l5HigKVQ
ああ・・・・そうなんだ。いつも西野は言っていた。そして、俺もそういう気持ちか
ら映画を作りたいって始まったんだ。どうしてわすれていたんだろう・・・・・
(幸せっていうか俺は驚かせたいんだ! 俺のつくった映画で)
(俺はいつでも夢最優先で生きてくんだ。自分が本当にやりたいことやってんだから誰にも文句はいわせねえ!)
俺が大学に入って追い求めたものはなんだったんだろう。気がつけば俺はいつも才能を
言い訳に逃げていた。西野だって、最初はあんなに料理が出来なかったのに。
俺は、口ばっかで、結局なにもしなくて・・・・・・・・。
いつしか忘れていった大切なもの。俺が映画を作る理由。それすらも
見失ってしまっていたんだ。次第に見失って忘れそうになる。
あの頃、技術もなんにもなくて、ただ映画を作りたかった・・・・・・・。
止まらない涙、押し寄せる後悔。一体何が残ったんだろう。
「このラストシーンのようになりたくないんじゃったら、そんな顔するな。そんな顔
つかさちゃんにみせられんじゃろ?」
 いつだって俺は後悔を繰り返してきた。先の見えない不安に押しつぶされていた。
 でも、もうすこしゆっくり歩いても良かったのかもしれない。今後悔をしても、きっと
何もかわらない。だからといって、俺は結局映画を諦めることもできないんだ・・・・。
 どんなに才能がなくても、映画を作り続けるしかないんだ。誰のためでもない、自分自
身のために。俺は、こんなにも映画が好きだったんだ・・・・・・・・。
 館長にお礼をいって俺は映画館を後にした。なにもしなくても自然と笑顔がこぼれてい
た。こんな気持ちになったのはいつ以来だろう。
大きく息をすってゆっくりと吐き出す。
「ま、長い人生ゆっくり歩いていきますか・・・・・」
空を見上げた。季節の変わり目をつげる強い風が吹きすさぶ三月。俺は第二のスタートをきった。


671 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:24 ID:l5HigKVQ
Dear  西野つかさ
お元気ですか? 誰だっけ? なんて言わないでくれよ。二年前から返事を返してなく
てごめん。
パティシエの修行はどうですか?西野のことだからきっとすごい上達してると思います。
俺はもうすぐ大学を卒業します。でも、就職先は決まってません。なにやってんの! な
んて西野のあきれる顔が浮かんできます。ほんと、なにやってんだよ俺・・・・・じゃ
なくて、大丈夫です。夢は諦めていません。諦めそうになったこともあったけど、諦め
ないで頑張ってみることにしました。今の俺は、まだ西野に会えるようないい顔をして
るかどうかわかりません。だから、返事は返さないで下さい。西野に頼らずに自分の力
でやってみたいんです。そしていつかきっと、西野に追いつくから。
短いけど、これで。パティシエの修行頑張ってください。
いつか西野に会える日を信じています。
                        真中淳平


672 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:26 ID:l5HigKVQ
〜二年後

「真中! 早くその機材もってこい!」
「真中! 監督にお茶出して!」
「よ〜し。じゃあ、休憩にはいるか」
「ふ〜、疲れた」
俺は今、映画の製作会社で働いている。まだ雑用ばかりでろくに一つも映画なんて撮っ
たことないけど。でもあせってはいない。ここで働いているだけで勉強になる。そして
いつかきっと、俺の作った映画をたくさんの人に見てもらうんだ。
「真中! 何見てんだ?」
「ああ、これですか? お菓子の本です」
「なんだ? お前そんな趣味があったのか? 似合わんやつだな〜」
「ち、違いますよ! ちょっと、知り合いが出てるんで」
 そういって俺はそのページを見せた。
「え〜、今注目のパティシエ 西野つかさ。何だお前?こんな美人と知り合いなのか?」
「知り合いっていうか、まあもう何年も会ってないですけど・・・・・・」
「ふ〜ん。おっ!なになに、自分が作ったものを一番食べてほしい人はだれですか?え〜日本にいる大切な人、か」
「まさかお前じゃないよな。じゃあ、そろそろ撮影再開するぞ。カメラもってこい!」
「あっ!ハイ」
 そしてまだまだ修行の日々は続いていく。でももう後ろを見ることはない。
 忙しい日常の中で、いつしか人は大切な何かを失ってしまう。それがなんなのか気づけ
ない人がほとんど。子供の頃に願った夢は遠い思い出になり、現実の波にのまれる。
出てくるのは数え切れないほどの愚痴と後悔。あのときにこうしていれば・・・・・
なんて一体どれほどの人が思うんだろう。やらずに悔やむよりも、やって悔やむほうが何倍もいい。そのことに気づけたんだ。パリへいった西野も、そして俺も。
振り返ってる時間はない。前だけをみて進みたい。そしてきっとその先に、俺たちのゴールがあるはずだから。





673 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:27 ID:l5HigKVQ
卒業式から六年後の今日。また俺は毎年のように中学校を訪れる。俺たちの原点を。
以前のように涙が流れることはもうない。風に揺られる桜を見るたびに西野を思い出す。
(好きだああっ西野つかさちゃん!! おっ俺とつきあってくださ・・・っっ)
(あーはっはっはっはっはっは!! い、いいよ君となら、あははははは)
(せっ世界で一番、西野が好きだあああああ!!!!!)
(・・・・あたしも世界で一番淳平くんが好き・・・・・これからもずっと・・・・)
もうずっと俺たちは会っていない。それでも俺の西野への思いは変わらない。
そしてきっと西野も。自惚れなんかじゃなく、きっと俺たちはつながってるはずだから。
舞い上がる桜の花びらを見て、自然と鉄棒に手がかかる。
「西野は今パリにいるけど、叫んだら聞こえるかな・・・・・・・」
 遠くパリにいる西野に送る、自分ができる精一杯のエール。誰もいない校庭に一人で懸垂を繰り返す。そして叫んだ。
「好きだああああああ!!!」
その声は風に乗って、きっとどこまでも届くはずだと信じていた・・・・・・・・・。



674 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:28 ID:l5HigKVQ


























「誰のことが?」
「えっ?」


675 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:29 ID:l5HigKVQ
突然かけられた声に驚いて俺は鉄棒から転げ落ちる。
逆光で相手の顔は見えない。俺の顔はちょうど相手のスカートの下に来ていた。
「い、いちごのパンツ・・・・・・・・」
スカートの中に見覚えのあるいちごのパンツが見えた。
「ど、どこみてんのよ――――――――!!」
 前にいる女性に蹴り飛ばされて、俺は数メートル吹っ飛ぶ。
 起き上がってその女性の顔をみて時が止まった。
「・・・・・・・・・・に・・・し・・・・の・・・・・」
そこには西野がいた。高校時代よりも伸びたセミロングを風になびかせ、あの日のままの笑顔で微笑んでいた。
「ただいま。淳平くん」
「・・・・・・・・お帰り。西野・・・・・・・」
すべてが始まったこの場所で、今日俺たちは二度目の出会いをした。
揺れる桜のざわめきが、まるで俺たちを祝福してるようだった。



676 名前:◆3Kn3xqDy2w 投稿日:04/03/20 11:29 ID:l5HigKVQ
俺達はどれだけの季節を一人で歩いてきたのだろう。信じることさえも出来ずに。
振り返ればいつもそこには君がいたんだ。例えどんなに離れていても。
距離も時間も、俺たちには何の関係もなかったんだ。
いくつもの遠回りをしてたどり着いた俺たちは、誰よりも幸せになりたいと願う。
もう二度と離れない。これから・・・・・・俺たちは・・・・・・・・。


毎年同じようにして咲く桜は、同じようにして散っていく。
恋もまた、桜と同じようにうつろい、やがて散っていく。
それでも桜は咲き誇る。同じ場所に、同じ花を彩り続ける。たとえ何度散ろうとも。
同じように何度でも二人は巡りあう。そしてそのたびに二人は恋をする。

六年前に止まった二人の時間が、今ゆっくりと音をたてて動き出した・・・・・・・・。

Graduation ~ fin


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